靴は10作目を超える、ベテランSさん・・・。
昨年暮れにダービーの仮履きを終え、いよいよ本番へと突入いたしましたが・・・・、
なんとここへきて吊り込み作業に大苦戦・・・。
これまで『ホールカット』の靴等も作ってきたので、もう吊り込みはお手の物・・・、と私も思っておりましたが・・。
どうやら、革の“伸び方向”を取り違えて裁断してしまったよう・・・。
革には“伸び易い方向”と“伸びにくい方向”とがあり、裁断の際、革を引っ張りながらその向きを見極める必要があります。
初心者の方や歴の浅い生徒さんには、その見極めが難しいので、私が実際本番の時にその向きをチェックしてから生徒さんに裁断してもらうので、大きな間違いは起こらないのですが、ベテランさんの場合、聞かれなければある程度お任せしております。
その弊害が、今回のつり込み作業で出てきてしまったようです・・。スミマセン。
ということで吊り込み時に、革を水で濡らしたり最終手段として熱を加えたりしながらトライしていただきましたが、結果甲部の皺を完全に消すことができず、完了となりました。
技術的な事とは関係のない、基礎知識的な部分でもありますので、ある程度経験値が上がってきたベテランさんならではのミスとも言えます。
ということで、皆さん、革の向きは十分に注意して採りましょう。
さて、Sさん、気を取り直して、底付け作業へと突入です。
これまでハンドソーンウエルトでの底付けが多かったので、今回はサクッと仕上げる“セメンテッド製法”です。
※因みにアッパー裁断や縫製風景はこちら➭靴教室|パイピング?ビーディング?それともヘリ返し?
飾り押し縁を付けて・・・・、
底材用のノーテープ9360を塗布していきます。
因みに、今回選んだソールはVibramオールソールの中でも比較的新しい『Vibram9105』。
新素材であるVi-Liteを使用した軽量スポンジソールで、柔軟性・耐久性に優れ、最大限に軽量化された新素材です。
グラインダーで削りまわし、レザー押し縁ちに磨きをかけて・・・、
完成~!
早速足入れです。
まあ、履いてしばらく歩けば、甲の皺はほとんど分からなくなりますので、結果オーライといったところです。
因みになんですが、外羽根(ダービー)の場合今回の様に、甲の革とベロを一体で採るのもいいのですが、下の写真の様に、甲部とベロを別々に裁断して縫い合わせる、という方法もありです。
赤丸のベロの付け根部分・・・、ミシンステッチがチラッと見えており、切り返ししているのがお分かりでしょうか?
羽根や靴ひもで隠れるので、よ~く見なければ殆ど見分けられないレベルです。
その際、上の写真の様に、ベロ下部の付け根部分は直線なのに対し、甲上部はⅤ字型にカットして貼り合わせると、ベロが自然に立ち上がり吊り込み時に甲の皺が出にくい・・、つまり吊り込みがし易くなる、という方法もあります。
基本、生徒さんの靴の型紙を作成する時は写真等でデザインを選んでもらい、この部分も忠実に再現して型紙を作りますが、デザイン的に吊り込みが難しそうだったり、吊り込みに自信が無いという方には、本番時にこの方法で型紙を修正して行うことも可能ですので、現在外羽根を作成中という方は、ご遠慮なくお声がけ下さい。